仕事が忙しすぎて家がほったらかしなので、昔の話でも書いていきます。
四国遍路で愛媛にいた時の話。
宇和島の善根宿を出て、その日は仏木寺と明石寺へ行って明石寺付近で宿に泊まろうと思っていた。
昨日はそれなりに暖かかったし、善根宿には一般的に風呂がない。
車道での峠越えは起伏のしんどさがあり、かといって山のような開放感もなく、休む場所もあまりない。
昼過ぎには疲れてきて、明石寺で宿を聞くつもりでとにかく歩いた。
が、やはりへろへろで閉門前にどうにか納経を終えたもののお寺は片付けモード。
宿を聞ける感じではなかった。
とりあえず大通りに出て飛び込みで探すか・・・と暗くなり始めた道を歩き始めたら声がした。
「おーい!おへんろさん!」
が、周りには人のいそうな場所がない。
「一緒に泊まりませんか!」
なんと隣の廃屋の2階から、足摺で同宿だった師弟の弟子氏が両手を振っていた。陽気だ。
「お久しぶりです!宿決まりましたか?」
「いえこれからです」
「ここ、持ち主には許可取ってますからどうぞ!」
どんな人脈だよ。
入ってみればきれい、なんてことはなく見た目通りの廃屋だった。
床が抜けるほどではないが廃屋だった。
電気もガスも水道も当然ないが、トイレはボットンなので問題ないし、オーナー宅の水道を借りて水も調達できる(らしい)。
電気はヘッドライトがある。
ラジオを聞きながらキャンプ用コンロで師匠が作った晩御飯をいただいた。
風呂はもちろんない。
あてがわれた2階の部屋にはピチピチの松下由樹のポスターが貼ってある以外は何もなかった。
松下由樹は今の方が美人だと思った。
銀マットを敷いて寝袋を出し、他にすることもなくヘッドライトの電池を食うのも嫌なので腕にカイロを貼って寝る。
目の前の道路では夜から工事が始まり、ただの四角い穴になっていた窓から音が丸聞こえだった。
その日見た夢は「この廃屋に立てこもった過激派の私が警察に包囲され、弟子氏が必死に私を説得している」というものだった。
(引き入れたのは弟子氏だというのに。)
翌朝、NHKのやたら詳しい天気予報を聞きながら豆腐をいただいた。愛媛は霜注意報が出ているらしい。
寒いので何もしなくても冷奴だ、と言ったら師匠が笑っていた。