クズは定時で帰りたい

趣味の時間を捻出するブログ

小説をあきらめた話

ふと思い出した学生時代の話。

 

4回生の年度末、春休みの早い私大生が次から次へとミクシィの日記を上げていた。

卒業旅行でドイツへ行った、イタリアへ行った等みんな大騒ぎである。

「仕事が始まったら近場の海外しか行けなくなっちゃうから」感が文面に滲み出ている。

こっちはまだ卒業も決まってない(卒論が1月末締切だったしね)し

卒業したらしたで奨学金を返済するので海外など行っている場合ではない。

 

就活に失敗しているやさぐれ貧乏学生の私と友人はますますやさぐれ、

みんなが海外に出るならば私たちは県境すら越えないもんね!と十津川旅行を計画。

八木まで電車で出て日本一の長距離路線バスで十津川まで行ったのだった。

 

温泉はさすが源泉掛け流し、未だにあれより気持ちいい温泉に巡り会えていない。

料理もおいしいし宿の人は親切だし、

十津川って関西にありながらイントネーションが東日本なので

道民と都民は日頃のアウェイ感も忘れてゆっくりできた。

 

 

一方でちょうどこの頃、スピッツの曲をテーマにした小説の公募があった。

生活の足しにでもしてやろうか、と思って題材を練り

旅行ついでに書くことにした。

温泉旅館で原稿用紙に向き合うなんてもはやプロである。書く前からプロ確定である。

凡人は温泉と食事ですぐ寝てしまうのに私は小説を書くのだ。

しかも同行の友人もスピッツが好きで城ホに一緒に行ったりしていた。

これ以上適切なシチュエーションが他にあるだろうか。

なにがエッフェル塔だ。ロックンロール。

 

 

宿に到着して一息つき、満を持して原稿用紙に向き合う。

「なんで原稿用紙?」

「なんかスピッツの曲を題材にした小説の公募があってさ、

ダメ元で応募してみようかなと思って」

「すご!でもさ難しくない?メジャーなやつだとみんな書くだろうし。

曲は決まってんの?」

「いやー、決めかねてんだよ」

 

そんなことはない。心の中では決めていた。

 

テーマは「三日月ロック」の「ローテク・ロマンティカ」。

代休を取るために残業して終電を逃した「僕」は、

なんとなくストリートミュージシャンをナンパして家に転がり込む。

帰りにやたら高いCDを購入させられ、してやられたという気分で家を出る。

後日外回りの合間に偶然近所を通ったので公園で休んでいると

彼女が警察から連行されるところだった。

帰宅してそういえばCDでぼられたなとCDを開けると、中には白い粉。翌朝のゴミで捨てる。

というような話。

なんとか、ほにゃらら、ロックンロールである。

 

公募ガイドを鞄から出し、これに載っていたのだと友人に見せる私。

「こんな本あるんだ〜マジウケんね。知らなかった」

「高校で文芸部にいたから毎月買ってたんだよね」

 

書き出しは大体決まっていたので順調に滑り出す私。

「でもさあ、ほらわけわかんない曲とかあるっしょ?」

そうだね。「テレビ」とかは謎の曲として有名よね。

 

「三日月(ロック)のあれ、『ローテク・ロマンティカ』とか超意味わかんないから無理くない?」

「あー、まあ確かにあれもおもしろい曲だよね」

その意味わかんない曲をテーマに書き始めてるけどね今・・・。

 

「ジャンルは何縛り?」

「わかんないけどなんでもいいんじゃね?」

「『公序良俗に反しないテーマ』だってさ。まあ実質なんでもありだね」

公序良俗

公序良俗・・・。

 

ナンパ&白い粉・・・

 

「あ、こっちも良くない?論文とか倍率低そうだし芝ちゃんならいい感じに書けるっしょ」

などと言っている友人の横で、出せない懸賞小説を書いている私・・・

公序良俗の犬である。もはややる気もない。

 

そんな卒業旅行だった。

 

ただ「代休を取るために鬼残業」だけは

なんでこんなこと知ってたんだろうという感じである。